'0808号

Post 「ITMA Asia Shanghai」 A

労働賃金上昇が設備新更新を促進させる

機械設備投資の3大要素に「省エネ」「省力・自動化」「高品質・高付加」

  北京、上海、広州では、ここ5年間に約70%の賃金上昇ぶりだ。さらに各種の保険・保障費の負担が雇用側にのしかかる。特に外資系には租税優遇措置が殆どなくなり、ドル安・人民元高と相まって、繊維やアパレル産業にとっては、ますます逆風にさらされている状況だ。

  これらの悪条件を少しでも緩和させる方策があるとすれば、当稿タイトルに掲げた3大ポイントに狙いをつけて、スクラップ・ビルドを促進させる必要があろう。しかし果たして日欧の先進機械メーカーに、投資ユーザー側を満足させるだけの機械・装置(安くて高性能そして利便性)を開発・提供できるかどうか。今回のITMA上海展での焦点であり課題でもある。

  世界は目下"3F"(Fuel、Food、Finance)の対応に大童である。当然ながらインフレという嵐に見舞われ、やがて"スタグフレーション"という景気低迷の時代がやってくることも覚悟しておく必要がありそうだ。
 さらに中国は、かつての東京オリンピックの後がそうであったように、不動産を始め建設や各種工場の設備投資が落ち込むのは必至である。これに加えて「天・地・人の天災・人災」の後始末に追われることとなり、インフレと失業対策が追い討ちをかける。"天地人"の天は、中南部地域に降った2月の豪雪と6月の洪水。地はもちろん四川省の大地震。人はチベットの暴動とウィグルの不穏な情勢も気がかり。四川と雲南はシルク、チベットやウィグルはウールの産地である。国の助成と補助金を入れてでも設備・加工工場への投資が必要だ。雇用対策にも有効で、汚職と中間搾取を排除し、かつ税制優遇措置を講ずれば、他域の繊維工業界にも好影響をもたらすことだろう。すでに沿岸地域の外資系加工工場、特に縫製・アパレル関連企業は南のベトナムやバングラへと生産移動が始まっている。

  上海展が閉幕しても、中国側の設備投資は少なくとも半年間は動かないと予測されている(日欧の大手機械、取り扱い商社も同様の見方をしている)。というのも、日米欧の景気が先の"3F"とインフレ、所得の目減り等の理由から消費不況は時間の問題だとされる。となれば、一番に衣料とレジャー関連ににシワ寄せされる。

  中国からの製品輸出は対米については数量の自主規制、そして景気後退とドル安、雇用不安で消費マインドは低下の一途。日本と欧州は原油や原材料高に加え食品の値上がりで苦しんでいる。インフレを警戒して金利を引き上げると対ドルレートは一段と高くなり、日本と同様に機械の途上国向け輸出は厳しくなり、昨夏のサブプライムに端を発した米の金融不安が取り沙汰されて以来、中国上海株の暴落を引き金に、インドや香港、シンガポール、そして日本も、景気後退を見越した株式の手じまい売り、企業の資金繰り悪化が野火のように拡がった。

  中国中央銀行は今年に入って2度も公定金利を引き上げ、国営・民間を問わず各銀行の貸出し枠を狭めている。いわゆる貸し渋りと同時に不良債権の整理も厳しく進められた。この春、ある大手メーカーが成約したものの、LC発給がこないと騒がれている事態もあったほど融資に慎重になってきたことが分かった。とくに中堅以下の紡織染業者に対する融資はとくに厳しいといわれる。
 こう見てくると、さすがの中国もこと繊維・雑貨類といった労働集約的産業も限界に近づいていると見て間違いない。事実、日米欧からの繊維加工(アウトソーシング)に対する投資は一昨年秋から急速に減ってきている。その代替として日本はかつて進出済みの海外基地であるネシア、タイでの再投資、ただしタイヤコードやカーシート、テントやベルト類など、産資向けに設備を転換しつつあった。衣料と違って付加価値もつく。これらを日米欧向けに輸出してきた。これをみて韓国、台湾も中国から抜けて衣料はベトナムやネシアやバングラに産資やインテリア等はタイやマレーシア、一部はベトナムやフィリピンに投資を分散しつつある。中国で今後海外から投資が見込める成長繊維業種は、ウール使いの高級ニットと各種糸布の高級染物・仕上設備などは有望とされている。事実、今回の上海展では、これまで北京展でも見かけなかった欧州の有名ニット機械や染色・仕上機メーカーが、ずらりと顔を揃えて参加していることでもこのことが分かる。当然、日本から日阪や京都機械、ニットでは代理店を通じてしか出されなかった横の島精機、丸の福原、そして靴下の永田精機もだ。

  中国の設備投資(スクラップ・ビルドが主体とされる)が復活するのは早くて6ヵ月後、下手をすると来秋にズレる公算も強い。同国や日米欧の消費動向にもよるが、目下のところ日本の内閣、米の大統領が代わったからといって景気が急によくはならない。中国の繊維製品輸出も限界となれば、ここ数年で中国の中堅以下の繊維工場はバタバタと閉鎖あるいは倒産に追い込まれよう。素材と人件費の高騰に加えて人民元切上げも必至。加えて資金繰りの悪化、加工・操作技術者の不足、品質向上・管理の低さなど、どれをとってもレベルが並み以下だ。注文が減れば融資も受けられず、淘汰されていく。かくしてそのあとの形態は、かつての日本型、大手素材メーカーが各産地の機屋、ニッターに下請け発注し、染色させたうえ生地を内外に供給する、いわば分業体制が通常だったが、中国の近い将来は、巨大企業集団に発展して、かつての韓国のような独裁開発や日本の戦後の拠点集中育成といったものではなく、共産中央の政策変更の一声で、恐らく米国型あるいはかつての巨大国営紡績のように「紡・編織・染・縫の一貫生産」とブランドの浸透をはかる。それによって雇用の安定、技術向上、品質安定、合理化投資によるコストダウン、販売網の確立を目指すことが求められる。これら集団を絹・毛・綿・合繊の糸種によって全国に50〜80拠点に集約させる。もちろん競争原理を働かせ、内外のバイヤーと自由に商談させ、高い評価を受ければ入札制度(かつてエジプト綿や糸布は政府が管理して(国際入札させていた)も可能だろう。
 もし中央政府の商工部がこうした施策方針を打ち出すことが明らかになれば、日欧の繊機メーカーのみならず、建設業や環境関連、コンピュータソフト開発などは大いに喜ぶだろう。悲しむのは加工業間を往復する運輸業者や中間取り扱いブローカなどだけ。

  最後に、日欧の繊機メーカーにとって、中印やアセアン諸国向け輸出に変調・減少するのではと気にかけている。では次の期待市場を探してみた。見方を斜め読みすると、まずメキシコ。船舶運賃が高止まりし、一段とドル安が進めば、米は中国製といえども売値にカサ上げされる。民主のオバマ候補はクリントンの票田だったヒスパニックたちを取り込む狙いで、NAFTA協定を活用して、メキシコ側に資本貸与して繊維工場を立ち上げ、現地人を多く雇えば不法入国者も減る。製品の輸送費も恐らく80%以上軽減され、しかも関税はゼロに近いし、第一に両国とも棉産国である。生産過剰になれば中南米に安い価格で供給できる。すでに帝人などは旧デポン系列の工場を引き取って設備を産資やカーシート向けに切り換えてドル安を背景に北米、南米、EC向けで稼いでいる。一昨年秋の北京展でそのことをリーター社(スイス)やスペインのニット機メーカーに聞くと「メキシコや米(多分、現地への投資)からの引き合いが増えつつある」との返事だった。
 そしてロシアの動きだ。メドベージェフ大統領は演説で「中小企業の育成に力を入れる」とし、早速に地方の紡織工場を視察している映像を国営テレビに流させている。そして「ロシアの衣料雑貨の80%以上が輸入品だ。棉産国のロシア、近隣国のウズベキスタンもワタを輸出して製品を輸入している。これでは中小の多い繊維産業は育たない。所得や雇用の為にも国から補助を出して育成し、一方で製品の輸入規制も必要だ」とのインタビューも載せていた。またサミットでも会談で「日ロ間の経済交流を活発化させたい」と語っているが、こと繊維関連設備では、これまでドイツ、チェコ製が大半。ただし例えばロータ空紡機は旧東独姓をシュラ社が、チェコはリーター社がロータやコーミング、駆動装置を供与しモデュファイしてアセンブリングしたもの。オートドッファもオートピーシング装置もつけずに、その分を値引きして売っているようだ。
 日本からは@タイヤコードやカーシート、ベルト基布等の産資用合繊プラントおよび撚糸・製織等の一貫プラントA人工皮革製造プラントBAJL(シーツ、タオル、シャツ、ジーンズ等)及び各種ニット機械C多色柄の自動プリンタと仕上機などが有望といわれる。

  ITMAアジア展は欧州と中国の共催とあって、出品社は中国が40%、欧州が50%、あとは日本、インド、韓国、台湾といったところ。欧州でも独、伊、スイス、スペインの4カ国で大半を占めている。伊とスペインは機械(モデル・テスト機が主流)そのものより部用品や用辺装置、計測試験機で80%を占めている。中国に「コピーしてください」と云っているようなものだ。それとも現地に部品の下請けを依頼し、中国内にも供給販売する狙いがあるのかも知れない。数年までならともかく、今中国内でスタンダードの部用品をレートの高いEUから輸入してまで導入使用するとは思えないのだが。

  とにもかくにも、世界同時不況の入り口に立っている今日の情勢を頭に描きながら、ITMA上海展の成果を見守りたい。